乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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<   2009年 03月 ( 6 )   > この月の画像一覧

夕暮れの鮮度

仕事をしていると夕暮れ空を見ることがない。441号線のゆるやかな坂道を
夕日に向かってくだりながら、たいしたことは考えていない。中華料理屋の前で
お惣菜を売る女の子は今日はチャイナドレスじゃないな、とか。
スピーカーから流れてきた歌謡曲を聴いて、日曜日のことを思い出す。

すぐれた創作というのは、そこにこめられた「思いの鮮度」ではなく、
「風景の鮮度」なのだと、こないだコクテイルで岡崎さんの歌を聴きながら
ふと思った。うれしい・せつない・かなしい・さびしい、と喚くまえに、
その目にうつるものを丹念におうこと。それを手垢のついていない言葉で伝えること。
それは「かなしい」よりも「かなしい」そのものとして、受けとめる人の手のひらに
もう一度うまれる。

岡崎さんの歌声はおしゃべりの声とややちがう。
おしゃべりの声よりも乾いていて、息を吹きかけたらとおくまで燃えそうな冬の空。
2日前に4ヶ月分残っていた定期を失くして、気持ちが変に大きくなっていたせいか、
2冊も本を落札した。たぶんこんなことは二度とないです。
ふと思いついてメモをしたので、当日のセットリストをこちらに記しておきます。

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3/29 岡崎武志バースデイライブ in高円寺コクテイル

・春だったね(吉田拓郎)
・ルームライト(由紀さおり)
・乙女のワルツ(伊藤咲子)
・わたしの宵待草(浅田美代子)
・私は忘れない(岡崎友紀)
・思秋期(岩崎宏美)
・息(詩・谷川俊太郎、曲・岡崎武志)
・蕎麦屋(中島みゆき)
・永遠の嘘をついてくれ(中島みゆき)
・スカーフ(イルカ)
・FUN(井上陽水)
・白いページの中に(柴田まゆみ)
・ハイライト(吉田拓郎)
・あざやかな場面(岩崎宏美)
・さらば恋人(堺正章)
・なごり雪(イルカ)

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夕日はみるみる落ちていく。
小学校の屋上で、むいてもらったオレンジみたいにころころしていた太陽はもう、
アパートの上まで降りてきていて、こうこうと国道を照らす。物質、というより
何もない丸い、あかい穴のよう。
やがて、あらゆるコンビニの明かりが夜を感知してとがりはじめた。
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by mayukoism | 2009-03-31 20:14 | 言葉
伊集院光がラジオでカセットの話をしていた。
ノーマル、ハイポジ、メタル、あったなあ。
レーベルに転写するアルファベットのシート!
すっかり忘れていたものの存在を、だれかの言葉でおもいだすとき、記憶とは不思議にあざやか。
そしてその記憶はいったいどこにかくれていたのでしょう。
脳みそのひだひだのあいだのなみまのまにまにむにむにと二の腕に触る。意味なし。

むかしの同僚の女の子たちと車で箱根まで行ったとき、ひとりが中学のときに
編集したカセットというのを大量に持ってきた。
そのうちの一本をかけたら、これがプリンセス・プリンセス『世界で一番暑い夏』のA面ぶっちぎり
くりかえしで笑った。歌うのに巻き戻しするのが面倒だったから、とのこと。気持ちはわかる。
峠の車内で真心ブラザーズの『ストーン』を大合唱したりもしていた。
女の子だらけの旅行とはとても思えません。

学研か何かで、自分のラジオ局を作ろう!みたいな記事があって、架空のラジオ番組を
カセットに録音したことがあったと思う。はじめは妹に聴かせようと思っていたのだが、
聴き返してみて封印した。はじめのあいさつで露呈する過剰な自意識が恥ずかしい。
そしていつのまにかこんな本が出ていた。
『ミサキラヂオ』(早川書房刊/瀬川深著)
ぱらぱらとしてみた。ちょっと面白そう。

中学のとき、ちょっとだけ好きになった男の子が音楽好きで、カセットをもらったことがあるが、
入っていた曲が城之内ミサ、崎谷健次郎、スターダストレビュー、稲垣潤一などなど、
かなりしぶい趣味だった。わたしのラジカセはノーマルしか録音できなくて、彼のカセットは
ハイポジだったから、お返しのカセットをどうしよう、とか思っていた。
あのめがねの彼はいまごろどうしているでしょう。
よく考えたらもう20年も前のことなのだった。

時間よ、きみがはやすぎるのだ。
この世のことをもう少しゆっくり眺めさせてください。
だってもう3月も終わってゆく。
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by mayukoism | 2009-03-24 03:51 | 聞いたこと

わたしのラジオ・デイズ

手のひらにのせるとほどよくおもく、7この銀色のスイッチのついたちいさな四角い機械、
それがわたしのポケットラジオです。

ある日、ふるくなったラジオを知人がはい、とくれました。
周波数表の予備がなかったので、携帯電話で撮影したものを保存してありますが、
聴く放送局はふたつだけ、NHK第一(1のボタン)とTBSラジオ(4のボタン)のみです。
ごくたまに、音だけほしいときはAFN(3のボタン)を流すこともあります。FMは聴きません。

ポケットラジオがこの部屋に来てから、テレビをつけることがほんとうに減りました。
ひとりの部屋にはひとりの沈黙が否応なくつもってゆきます。
充満していく沈黙をただうっとうしいと思ってしまうことがあるのです。
うっとうしさをごまかすためにテレビをつけると、ぼんやりした頭のぼんやりとした中身が、
にぎやかな画面にどんどんと吸いこまれて、いつのまにか自分がいないと思うことがあります。
そのままぼんやりと、空が白んでしまうこともあります。

ラジオを聴くようになってから、そのような夜はだいぶ減りました。
ラジオはわたしと夜のあいだにうまいぐあいにはさまって、邪魔することも侵すこともありません。
夜ならNHK第一を聴きます。1977年初夏の諸橋轍次の声が流れたりします。
たまにはTBSラジオも聴きます。伊集院光の番組を聴いて「田代さやか」を検索したりもします。
おおきくてやわらかそうな胸でした。

昼なら「ストリーム」、武田一顕記者が好きです。
自分の休日である火曜と水曜しか聴けないのが残念です。
しかもせっかく聴きはじめたというのに、来週で終わってしまいます。
8年つづいたなかの最後の3ヶ月くらいしか聴けませんでした。無念。
最終週で、町山智浩と勝谷誠彦が何をしゃべってくれるのか今から楽しみです。

土曜の夜は「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」です。
宇多丸、すばらしく話がうまい。クレバーな人です。こういう人にあこがれる。
全身をアンテナにして、ラジオに耳をかたむけます。
ここで紹介されていた本が売れたとき、思わず「宇多丸の…?」と話しかけてしまったことがあります。
こちらは3時間番組に拡大するそうです。よかった。

休日、終わってしまう「ストリーム」が名残おしく、はじめてラジオをポケットに入れて部屋を出ました。
ふるいラジオなので付属の巻き取りイヤホンでは聴けず、もっぱら家で聴いていたのですが、
先日、知人が使わないイヤホンをはい、とくれました。
イヤホンを差し込んで、いつもは動かさないスイッチをあげると、歩きながら「ストリーム」を
聴くことができました。

その夜、少々飲みすぎて終電をのがし、徒歩で部屋に向かっていた道すがら、
ふとポケットの厚みに触れてラジオのことを思い出し、うきうきと聴いてみることにしました。
ワインと日本酒はてきめんに酔いますなあ、とほがらかな気分になりながら、
イヤホンで爆笑問題のふたりのかけあいをずっと聴いていました。
聴きながら、ほんとうにほしいものがわかる人になりたいと思いました。
月はどこにも出ていませんでした。
酔った目で見る夜はまるいビーズのようになって、足元にひしめきあっていました。
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by mayukoism | 2009-03-20 01:28 | 生活

かわいそうなひと

「花王のバブ さくらの香り」を湯をはったユニットバスに入れると、
存外に重いそのももいろの固体は、すぐに湯の底でしゅるしゅると
小さな音をたててあぶくになっていく。
あぶくの上に足のうらをかざすと、しばらくしてわずかに気泡ののぼるけはいを
つちふまずのあたりに感じる。
指の腹を鼻先に近づけると、さくらくさい。
せまい浴槽はすぐに濃い色に満たされ、やがて小さくなった固体は
にせもののUFOのようになって水面に浮かびあがり、はげしくまわりはじめる。
しゅるしゅるがうすくなって消えるまでを見ながら、本を読む。

お風呂で読了。
『美酒すこし』(筑摩書房刊/中桐文子著)

昨晩、ある詩集をさがしに池袋往来座に行ったところ、すでに売り切れていたことが判明し、
なんとなく気持ちのやり場がないままぐるぐるしていたところ、この本を見つけた。
のむみちさんに、そう、これお買い得だよね、と言っていただく。
『会社の人事』の詩人、中桐雅夫の奥さんの回想録だ。さっそく読む。

こわい本であった。
自分の中でおしとどめた気持ち、言葉、しなかったこと、できなかったこと、
すべては「あなたのせいです」と言ってしまいそうになる、あのときの感じ、
あのときの、感情がどこまでも先走って空回りする乾いた感じをありありと思った。

たとえば姫路の実家に帰ったまま戻らない文子さんの母親宛てに、中桐雅夫から手紙が届く。
この内容に激怒した文子さんが返事を「書き飛ばす」。
どちらの手紙も抜粋されているが、文子さんは実はこの手紙を出してはいないのである。
しかし文子さんは自分の書いた返事を、中桐の手紙とともに「保存してあった」と書いている。
なんというこわいことをするひとだろう、と思う。

『美酒すこし』は中桐雅夫の死の2年後に刊行されている。
が、ここに書かれている文子さんの言葉は、中桐雅夫が死ぬ前から、おそらくずっと
用意されていたものだ。
死の5年前、危篤状態となった中桐雅夫の枕もとで看護婦さんに、名を読んであげて、と言われた
文子さんはそれを拒否する。

あとで誰かが彼に言ったそうだ。「あなたの奥さんってすごいわね」すごいわねというのは女の子の台詞としては最高級の悪口なのだ。私には判っていた。かわいそうなひと。

『美酒すこし』から「かわいそうなひと―序にかえて」より


これは「むこうがわに行ってしまった人」に対する覚悟の態度だと思う。
もっと他にできることが、とか、こんなになるまでなぜ、とか、他人は自分勝手に言うだろう。
けれどもほんとうにむこうがわに行ってしまった人に対して、家族も恋人も友人も、
じつは何もできないのである。どんなに手をのばしても届かないということは、絶対にある。
文子さんはもうずっと長いこと「覚悟」していた。そしてこの人は潜在的に「書く人」であった。
中桐雅夫との生活の中でうまれたジレンマや憤りの感情を、文子さんはすべて言葉で
インプットしていた。インプットされたものはすでにうずたかく積まれていた。
それらをそっくり取り出して、生まれるべくしてこの本が生まれた。それだけのこと。

久しぶりに『荒地の恋』(文藝春秋刊/ねじめ正一著)も思い出してひらいてみた。
ちょうど中盤あたりに、中桐雅夫が亡くなったときの北村太郎や鮎川信夫の様子が出てくる。
奥さんは「艶子さん」という名で出ている。

「艶子さんとは話したか」
「ああ。あんな状況だったのにしっかりしていた。覚悟ができていたんだな」
「あのひとも肝が据わっているからな。俺ももう少ししたら彼女と話がしたいな」
鮎川が薄く笑った。鮎川は艶子夫人と親しかった。俺と艶子さんは似たもの同士だ、何しろ共通の敵が中桐だからな、などと冗談めかして言ったこともあった。


『美酒すこし』には中桐雅夫の詩が頻繁にあわわれる。
いま見つけられないのでうろ覚えだが、中桐雅夫が文子さんに、「きみの唯一のいいところは
話が通じるところだ」と言っていた、というようなエピソードがあった。
「書く人」であった文子さんは、話のできる人であり、中桐雅夫の詩の言葉を解する人であった。
きびしい文章の中に詩の引用があらわれるとき、そこに二人の、一言では説明できない
なにがしかの結びつきが見えるような気持ちがする。
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by mayukoism | 2009-03-16 04:22 | 本のこと

神保町古本屋街十句

コミガレに伏せた視線が交錯す



かがむ背に田村の二階なだれつつ



均一の小口を吹けば綿帽子



かかえてもかかえてもまだ未読



縦書きの看板を詩のように読む



均一の出ない雨ならぬれてゆく



ビルの谷間に眠りおり神田村



変わらない背表紙にただ触れている



均一の前で幾度もすれちがう



しゃべりつつゆけばいつしか九段下
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by mayukoism | 2009-03-13 13:27

詩のいとなみ

詩のことを知ろうとすると、
詩が逃げていく。

詩とは書くもの?
それとも生まれるもの?
はたまた語るもの?
さては歌うもの?

なぜあのひとは詩をつくるのだろう。
「詩人」と呼ばれるときあのひとはどんな気持ち?

詩の優劣とはなんだろう。
一億総詩人?
詩は時とともにふるびますか。
だれがそれらを詩であると決めたのですか。

詩のことを知ろうとして、
詩人たちの書く本をゆっくり繰ってみるけれど、
答えのようで答えでないようで、
少なくとも胸のくさはらにリンゴはすとーんと落ちてこない。

くさはらにほほをつけて眠るとほほがくさのもようになってそこがしっとりとしめっているのだ

そのしめりけに詩がありそうだとゆびでさぐって見てみるけれど、
やっぱりそこから詩は逃げていく。
いつのまにかそれは、
枕にかぶせたタオルのあとになっている。

ちりぢりとそこにあるようなふりをして、
さも話しかけてほしそうにもじもじ立っているけれど、

詩なんてほんとうはないのではないの?

まなざしは見ることによってしか生まれないのに、
まなざしそのものは見えないのだ。

詩なんてほんとうはないのではないの?

自分のことばっかりしゃべってないでほんとうのことを言ってよ。
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by mayukoism | 2009-03-06 00:14 | 言葉