乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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2010年 08月 16日 ( 1 )

雑踏で

雑踏でぐっ、と腕をおされた。

相手は左から、こちらはまっすぐ歩いていて、一歩を踏みだすタイミングが同じだった。
ぶつかるような格好になったので、とっさにそのまま前に歩いた。
歩いたところ、相手も同じように前のめりにせまってきて、ぐっ、と相手の体重が腕にのったのがわかった。
うごけなくなった。

見ず知らずのひとの悪意、もしくはそれに近いものをふと受けとってしまうとき、マッチの摩擦のように、
自分のなかの攻撃性がはっとめざめる。
そしてその火のような本能を、どうおもてに出してよいのかわからないまま、あいまいに雑踏へ
身体ごとまぎれていく。

相手とはそのまますれちがった。罵倒されることも、つかみあいになることもなかった。
左の二の腕に、他人の体温がのこった。
わすれたいようなたしかめたいような、相反する感情をもてあましながら地下鉄にのった。
地下鉄には外国人の集団がいて、なぜか中づり広告の福山雅治を熱心にカメラにおさめていた。

傷ついたような気持ちになんて、毎日、かんたんになれる。
けれど、「傷ついたような気持ち」には他者がいなくてひらかれることがないから、この気持ちは
つぶやきにも歌にもならず、ただ汁椀の底の貝殻のように折りかさなっていく。
「傷ついたような気持ち」の塚が、この身体のなかの、肋骨の下あたりにひっそりとあるような気がしている。
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by mayukoism | 2010-08-16 01:13 | 生活