乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

2008年 12月 06日 ( 1 )

歩くと、外気にふれる素肌の部分がぼわぼわとしびれてくる。
冬め、その調子だ、と思う。
寒いのも暑いのも得意ではないけれど、冬は冬のようにあってほしい。
おおいなるなにものかの、はるかなサイクルを感じながらわたしは何枚でも着込もう。

昨日、イトヤマさんに会った。イトヤマさん、絲山秋子さんである。
近所でサイン会があったので、なりゆきで参加してみる。
作家本人や作家のお話にはそれなりに興味があるけれど、サインはそれほどでもない。
たまたま手にした本がサイン本であれば、おっ、とは思うけれど、この本が好きだから
この作家のサインがほしい、とはそんなに思わない。
本の言葉に触れていれば十分に深まると思っている。
だからかなり気軽な気持ちで参加したのだが、列がみじかくなるにつれ、やや緊張してくる。
なにか言ってみようか、と思いついたからだ。
『文學界』をたまたま見てからずっと追っている、ことくらい伝えておこうと思ったら、
手が冷たくなってきてしまった。なんだこりゃ。
いよいよ目の前に来る。あろうことか夏に飲みかわした編集者さんがイトヤマさんの
そばにいて、待ちながらかるく挨拶するも、さらに動揺する。
自分の番になった。
椅子にすわった。

もう読んだか、と聞かれた。
読みました、と答える。
つづけて、デビュー作の『文學界』をまだ持っています、と言う。
イトヤマさんがすこし、かまえた、ような気がした。
村上春樹って大きく書いてある、あれ、と言われる。
そうです、正直はじめはそれが目当てだったんですが、と言うと、
地元の本屋にもたくさん積んであって、受賞したのをそんなに宣伝してくれているのかと
びっくりした、と言うのでわらう。
『文學界』からぜんぶ読んでます、と言う。
ありがとう、べつに浮気してもいいんだよ、と言われる。
わらう。
握手する。
ありがとうございました。
以上。

本をかかえて仕事に戻りながら、会話を反芻する。
洋服や姿ははやくもあまり思い出せない。
会話や声は思い出せる。
サインを見る。
イトヤマさんが書いたわたしの名前を見る。
うれしいわけでもない。
かなしいわけでもない。
浮き足だっているわけでもないが、落ち着いているわけでもない。
ただ、創る人の創られた言葉ではなく、生身に触れることで、なにかがずれる。
世界がゆがむ。
昨晩はそれで、ずっとずれていた。ずれるのをどうしたらいいのかわからないまま、
帰宅して、ラジオをぼんやり聴きつづけたりしていた。
まだずれている。鮭フレークの瓶がたおれた。
[PR]
by mayukoism | 2008-12-06 22:13 | 本のこと