乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

日記を書かない季節

日記を書かないあいだに、ようやくブラウス1枚では肌寒い季節になった。
それにしても街のひとびとは、秋のアイテムをファッションに
とりいれるのがはやい。
ブーツもニットも体感では暑いだろうが、こよみは秋から冬へと疾走。
感覚をとるか季節感をとるか。

日記を書かないあいだに、金木犀がいっせいにかおりだした。
あのつよいかおりが好きかと尋ねられたら、どちらでもないと
答えるだろうが、嗅覚がかおりをとらえたとき、とっさに
かおりの出所である樹をきょろきょろとさがす、その作業は好きだ。
ぽてぽてとしたオレンジの小さな花弁のかたまりを確認して、
これよこれよ、とひとりうなずく。
こないだ、住んでいるアパートの階段を降りたところで、ふいに
つよくかおったので見上げると、これが金木犀だった。
階段ののぼりくちに樹が植わっているのは毎日見ていたが、
金木犀だったとは気がつかなかった。
そうか、わたしは金木犀のあるアパートに住んでいるのか。

日記を書かないでいたのは、しばらく部屋に負傷した兵士をかくまって
いたためであった。
負傷した兵士はたくさんのビデオをお借りしてきていて、いくつか古い
日本映画を観た。
印象に残ったのは川島雄三監督の『洲崎パラダイス 赤信号』と 
成瀬巳喜男監督『流れる』のカットのうつくしさ。

『洲崎パラダイス 赤信号』は遊郭の中でなく、遊郭の入り口の
飲み屋が舞台であることがたいへんにいい。そして男も女も
それぞれにどうしようもなくだめなことが、切実にいとしい。
川島雄三の映画は『わが町』もよかった。
『幕末太陽傳』は途中で眠ってしまったのでもういちど観たい。
成瀬巳喜男の『流れる』はワンカットの構図が終始完璧に見えた。
とぎすまされた刃物のようなうつくしさ。
成瀬巳喜男作品は、自分では好きそうな気がしたのだが、実際は
川島雄三のほうが好みだった。
めちゃくちゃだけど、描かれた人間に体温があるのだ。

これらのビデオを観たあとで、街を眺めるとどこかくっきりとしている。
こんなふうに映画を観ることは本当に久しぶりであることを思い出した。
自分で思っていたより、わたしは映画を必要としているのかもしれない。
[PR]
by mayukoism | 2008-10-13 03:39 | 生活