乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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終わらない帰り道

「やりたいことですか」
ずっと音楽を聴いていることだ。ずっと、その時聴いている曲を最後まで聴くために
わざと遠回りするあの帰り道を繰り返すことだ。

『ミュージック・ブレス・ユー!!』(津村記久子/角川書店)より




多くの女性作家が創作の中で、そこで繰り広げられる「物語」のリアルを、
各々の方法で突きつめることに比重をかけていることに対し、
絲山秋子と津村記久子は「人物」のリアルを求めることに比重を
置いている。その意味で、このふたりの作家は根源的に近いものがあると思う。
絲山は「背負ってしまった人間の弱さ」を書き、津村は「背負うことのできない
人間の弱さ」を書く。
『ミュージック・ブレス・ユー!!』と同じように音楽を軸にした絲山の作品に
『ダーティ・ワーク』(集英社)がある。


私は、子供を産むだろう。昔から女たちがしてきたように。今こうして、私のことを
不安にさせたり、少しずつ食べ物の好みを変えたりしている命を、私は
育てたいと思うだろう。
わたしは立ち止まり、大きく息をつきました。
じゃあ、ギターは?
昔、別の人にそんなことを言ったなと思い出しました。仕事は休んだらいい。自分でも
驚くほどさっぱりとそう思いました。

『ダーティ・ワーク』(絲山秋子/集英社)より



前者は進路の決め方がわからない受験前の女子高校生、後者は大学を中退し
スタジオミュージシャンになった二十八歳の女性ギタリストが物語の中心になっている。
『ミュージック…』を読みながら、わたしはアザミがたどり着くのは『ダーティ・ワーク』の
熊井望かもしれない、と勝手に思ったのだ。

だったらそれはそれでいいかもしれない。
わたしは高校生の言葉にも二十八歳の言葉にも、正直、はげしくゆさぶられる。
わたしはどちらの年齢でもないが、ふたつの、一見矛盾するような思いが自分の中で
等しく同時に存在する。たえずどちらかにかたむきながら、それでもしばらくすると
あやういバランスを保ってまた、息をする。それはつまり、どちらにもなれないよと
いうことか。


音楽がそこにあるとはどういうことだろうと考えた。背後でドアが閉まる音を聞きながら、
アザミは、今はヘッドホンをかぶっていないし、何も持っていないし、これからもそうだけど、
自分はひょっとしたら、音楽を聴いたという記憶だけで生きていけるのではないかと思った。

『ミュージック・ブレス・ユー!!』(津村記久子/角川書店)より



しかし津村記久子はタイトルのつけ方がうまくないなあ。
『ちくま』に連載していた『コピー機が憎い!!』がこの人との出会いで、タイトルに驚愕した
勢いでさして期待せずに読んだのだが、これがなかなか類を見ない小説で面白かった。
この作家の動向はしばらくリアルタイムで追っていこうと決めた。
芥川賞は、どうだろう。今回は無理かもしれないが、このひとはいつかとるんじゃないか。
『コピー機…』はいつ本になるのだろう。
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by mayukoism | 2008-07-09 03:58 | 本のこと