乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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夜と胃薬

身体のどこかがいたむ。

いたんだ場所をさぐるのに、自分の内側に目をむける。
すると、身体の内側から夜になる。
あおい暗闇をさぐりながら、今日の自分をたぐっていくと、
ああ、缶のワインはめずらしいと思って、歩きながら飲んだな、とか、
レモンのグミをつまんでいたら袋が空になっていたな、とか、
いたみの原因は、いくらでもおもいうかぶ。

食べるものがわからなくなって、空腹感をのこしたまま夜の大通りを歩けば、
からっぽの胃袋が、夜に親和する。
胃袋のほころんだ部分から、夜がしのびこんでくる。
このにぶいいたみのありかがこの場所にあるな、とわかる。
夜は、胃のいたみをやわらげない。むしろ、いたみをはっきりかたちづくる。
そのいたみをマゾヒスティックに身体中で感受するのが、夜だ。

胃がいたむ夜ほど、ひとりを感じることはない。
過ぎるまでにいたみの質や、リズムがどんどん変化する。
とりあえず身体をまるめて、このいたみのながい一小節がとぎれるまで、じっと待つ。
いたーい、とさわいでみても治らないので、ただじっとしている。
同行者がいるときは、申し訳ないなと思う。
思うまもなく何度目かのいたみがくる。

こどものころから胃腸がよわかった。
母子手帳の記録に、カンチョーされたことがのこっているらしい。

いたみがひいて、明日のためにとりあえず薬を飲んでおこうと蛇口をひねるとき、
透明なグラスに、透明な水がそそぎこまれる。
夜の水は銀色のシンクの上で、しずかに光りつづける。
この水に。
放射能がはいっているかもしれない。
しれなかった。
と、この春は水を汲むたびに思う。思いながら飲む。
夜の水は、夜の発するかすかな光をあつめて、そこだけあかるくてきれいだ。

夜、会社を退館するとき、警備室に鍵を返しにいく。
今日、警備室の窓を開けると警備員は不在で、机の上にオレンジの
「エビオス錠」が置かれていた。
こどものころ、一回の錠数が多い薬を手のひらに出すとき、錠剤の配置でいっとき、
星座をつくろうとした。
おちゃわん座、とか、もみじの葉座、とか存在しない星が手のひらにできる。
他人の胃のことを思うときも、わたしの内側が夜になる。
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by mayukoism | 2011-04-17 03:41 | 生活