乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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うしなわれた電話番号についての散文

ゆっくりと、目を閉じるように暗くなり、もう目覚めなかった。
4月4日、わたしの携帯電話。

4月5日、データ消去に許可、の空欄にチェックをいれる。
電話帳はのこったので、電話はできる。



ハロー。
ハロー。
こちら地球、TOKYO、雑司が谷、夜です。
ハロー。
こちら2011年、4月10日、SUNDAY、春です。

どうかあたたかい場所にいてください。
暑すぎず。
寒すぎず。
あかるく透きとおった、かろやかなあなたの皮膚にちょうどいい温度で。

ハロー。
おそらくいくつもの数字の羅列を、おおきな水がさらった。

場所をさししめす数字。
順番をさししめす数字。
今日をさししめす数字。

あなたをさししめす数字。

わたしの指はあらゆるやりかたで4を書きつける。
いかなるやり方で4を書きつけても、あなたの4月にたどりつかない。




だいたいき、代替機、ってかたくななおとなみたいなひびきだね。
そう言うと代替機はふてくされて、た行を出そうとするとま行を出してきた。
ボタンの距離が、他人行儀。

4月7日、花見の連絡が代替機にとどく。
4月8日、予約書籍確保の連絡が代替機にとどく。
4月9日、代替機にはだれからの連絡もとどかない。

あんまり揺れると、不機嫌な代替機から数字がこぼれおちてしまう。



あの日、おそらくたくさんの数字が、手のひらからこぼれおちた。
いま、いくら数字を書きつらねても、あの日にとどかない。
いったいどれだけの数字の羅列から
意味がうしなわれてしまったのだろう、と想像するとき、
はなればなれになってしまった膨大な数の数字が、
かけあわされ、
かけあわされて、
まっくらな夜の海になる。




いったいどこに行っただろう。
目覚めない携帯電話に入っていた、わたしの
小さな空や川や窓や、くりかえした言葉。
もう二度とここへは戻らないのなら、
かけあわせ、
かけあわせて、
TOKYOの桜が咲きましたよと、夜の海にそそいでほしい。
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by mayukoism | 2011-04-10 04:48 | 言葉