乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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2階のある喫茶店

喫茶店は混みあっていた。
階段を上がってすぐのところにひとり席を見つけ、リュックをおろした。
中ほどでおおきくカーブする階段の、ほぼ真上にある席なので、
のぼる人のすがたと、下りていくひとのすがたがよく見えた。

のぼる人の息づかいは、すこし急いている。
まっすぐに2階を見つめて、空いてるかな、空いてないかしら、とややけわしい表情をする。
階段を上がりきったところで、とん、と大きく足を鳴らす。
存外に大きく鳴るのだ、足の裏というものは。
だれかがのぼってくるたびに、ひとり席のわたしはすこし身がまえる。

下りるひとの背中はいさぎよい。
あたたかさやあまやかさをふりきり、もう戻りませんさようなら、という覚悟のようなものが見られる。
足音は均一にとおざかっていく。
つむじとはなんと無防備なものだろう、と見下ろすわたしは思う。
視線を戻すと、読みかけのページに髪の毛の影が一本、外にむけてすうっと伸びている。

前髪に手をやって、このへんか、と押さえてみたけれどここでもない、ここでもない。
頭上の白熱灯が見つけた一本の跳ね髪を、わたしはすぐに見つけられない。

たまに他人に白髪を見つけられて、抜いていただく。
白髪の銀座地帯が右の側頭部の一部にあるらしく、ちくんとした痛みに慣れたころには
銀座は耕されて、更地になっている。
自分では白髪を見つけられない。
頭のあちこちを押さえて、ようやく跳ねた髪のあるあたりを見つけた。

約束の電話がかかってきたので、席を立った。
入れかわりに上がってきた人が、わたしのいた席に座った。
わたしはその人に、わたしのつむじがどのように見えるかを聞いてみたいと思ったけれど、
カーブのところでのぼってくる人を待っていたら、
そんなふうに考えていたことさえ忘れてそのまま下りてしまった。
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by mayukoism | 2011-01-14 03:11 | 言葉