乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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孤独の輪郭

わたしの思う孤独にはかたちがなくて、輪郭だけがある。

湯をはったユニットバスで膝をかかえた夜のほそい輪郭や、
手をふったあとに歩きだしたホームへかさなるあわい輪郭。

孤独の輪郭を、ひと筆の絵のようにシンプルに描きたいと思うけれど、
いつもそううまくはいかない。

ひと筆で描いたようなうつくしい孤独、というのはじつはその人物が
ほんとうの意味の孤独でないから、生まれるものではないかと思う。

帰る場所があり、うつべき相槌があり、書くべき手紙のある人が、
日常のすきまにうつくしい孤独の輪郭を描きだす。

うつくしい輪郭はなかなか描くことができないけれど、
そういう意味で、たしかにわたしは孤独ではない。

それでも一日三回の食事のように、夜になれば注ぐアルコールのように、
孤独がなければ生きてゆけないなあ、と思う。

孤独の権利、というものが確固としてあると思う。
個人の孤独の権利はまもられなくてはならない。
そして、自分の孤独は自分のやり方で獲得するのだ。

遅く起きた休日。
夜の約束までの時間を孤独のためにつかう、と決める。
強い風におおきくしなる、鬼子母神の欅を見あげながら歩く。

「キアズマ珈琲」の扉をあけると、聴き覚えのある旋律が耳に届いた。

いつもはこんにちは、とあいさつをしてカウンターに座るのだけど、
邦楽めずらしいですね、と思わず口にしていた。キリンジがかかっていた。

はじめは「スウィートソウル」、そのあともランダムに
「アルカディア」、「双子座グラフィティ」、「Drifter」が流れて、
雨がつよくなり、雨やどりの幾人かが店内を満たしたころに、
ふと強く吐いた息みたいに、「雨は毛布のように」が流れ出した。

雨宿りのおしゃべりはつづいた。
だから気がついたのはわたしだけだったかもしれない。
あれはマスターがわざと流したのか。それとも奇跡のようなタイミングか。

物語のつづきに目をおとし、あたまの中で想像の絵筆を持つ。
音楽と雨が、わたしの孤独をいつもよりていねいに描きだす。
さあ、できるだけシンプルに。



たとえ鬱が夜更けに目覚めて
獣のように襲いかかろうとも
祈りをカラスが引き裂いて
流れ弾の雨が降り注ごうとも
この街の空の下
あなたがいるかぎり僕は逃げない

キリンジ「Drifter」より

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by mayukoism | 2010-07-30 03:14 | 生活