乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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詩の触れかた

アメリのような顔立ちの背の高い少女が、書棚の前でぼんやりと本を並べていた
わたしのかたわらにいつのまにか立っていて、現代詩文庫の『永瀬清子詩集』を見せた。

英語?フランス語?と話せないくせにいっとき身構えたが、彼女は流暢な日本語で、
キヨコ・ナガセのきつねの詩をさがしている、タイトルはわからない、と言った。

ネットで調べるとすぐに「古い狐のうた」という詩が出てきたので、詩文庫をめくったが
この詩は収録されていない。

店頭にある本のなかでこの詩を収録しているものが、アンソロジーでもないだろうか、と
手あたりしだいさがしてみたが、見つけることはできなかった。

結局、「古い狐のうた」が収録された『あけがたにくる人よ』を注文していただくことになり、
伝票に連絡先を書いてもらった。彼女はカタカナで自分の名を書いた。

余談だけれど、外国の方に連絡先を書いてもらうと、「7」の数字にはかならず
おそらく「1」と見分けるための短い棒線がひっぱってある。「7」。こんな感じ。
あの棒線を見るのがすきだ。

伝票の控えをわたすと、彼女は『永瀬清子詩集』をカウンターに置いたので、
買わなくていいのかと聞くと、これは持っている、と笑ってエスカレーターを降りていった。

7」がすきなことに理由をつけるなら、棒線一本の余剰が「あなた」と「わたし」の遠さをあきらかにしながら
そこにメッセージを感じられることと、単純に見た目をかわいいと思うから。

『永瀬清子詩集』をめくってみる。母語ではない言語の詩は、彼女のこころのどこに
どんなふうに触れたのだろう。たぶんわたしとは違う触れかたで、触れたのだろう。

めくっていたら、書き出しに惹かれて読んだ詩にこころが落ちた。恋、というものが
瞬間冷凍されたらきっとこんな一連になる。冷たくて熱くていずれにしても傷ができる。


仕事にかかろうとあなたが上衣をお脱ぎになった時
私には脱ぐと云うことの美しさが
突然はっきりわかりました。
あなたが焚火に踵をおかざしになった時
人は無限の曲線から成ることを
そして踵は心を無限に導くことを
あたらしく私の眼に彫りつけました。

(『現代詩文庫 永瀬清子詩集』(思潮社)所収「見えるものの歌」より一部)



アメリの彼女はこれをどんなふうに読むのだろうか、とまっすぐだったまなざしを思いながら、
いままで読むことのなかったこの詩を閉店後の店内でこっそりと書きうつした。
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by mayukoism | 2010-05-12 16:30 | 言葉