乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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二次元のパン屋

近所に「かいじゅう屋」というちいさなパン屋がある。
住宅街の裏道ぞいにひっそりとひらいている。
目をこらしてやっとわかる、まちがいさがしのまちがいのよう。
その裏道をなんどもとおっていたのに、気がつかなかったなあ、と思っていたら、
それもそのはずで、水・金・土曜日の16時から19時までしかひらいていない。
そりゃあ知らなかったはずだよなあ、と思いながら、
日暮れのはやくなったいつもの路地で、
前に並んだふたり連れが、パンを決めるのを待っている。

そういえばさっきみどりちゃんが来たんだけど、とふたり連れの男の人のほうが言う。
初老の夫婦、にも見えるがどこかにあまい距離がある。恋人どうしと言ったほうがちかい。
女の人はどちらかというとパンをえらぶほうに夢中で、背中であいづちをうっている。
きみちゃんが来るっていってたからさ、よかったよ、ひどい格好じゃなくて、と男性がゆかいそうにわらう。
まだ、まともだったわけね、と女の人がウィンドウの中のパンをじっと見ながら言う。
うん、と男性がうなずく。




初秋に、鎌倉に行った。
ひさびさに休みの合った知人と、とくに目的はなく列車に乗った。
かまくら、と指でなぞれば、なぞったそばから海になった。
鎌倉はどこから歩いても、いつのまにか海になった。
海までの道すがら、窓越しに見たパンがおいしそうで、知人を送りこんだ。
缶ビールをまだ飲みきっていなかったので、わたしは白い店の入口でビールを飲みながら待った。
知人がチョイスしたパンを、どれどれと歩きながら食べた。
噛めば噛むほど小麦の味のする固めのパンで、ぎゅっ、ぎゅっと何度もたしかめるように咀嚼した。
もういちどひきかえして、もっと食べたいとおもったが、そうすることはなかった。




待ちながら、そのことをおもいだしていた。
そのあとたどりついた海では、知人がとんびの落としものにおそわれたり、
橋をわたった江の島では生しらすを食べながらラジオに耳をすましたり、
スマートボールで「20」の穴にボールが吸いこまれると、20個ボールがばららーと流れてきたり、
ガチャガチャで「江の島」の切符とロゴのピンバッチが出てきたり、
記憶はあっという間に、かんたんに二次元になる。
「かいじゅう屋」のパンをながめているうちに、ひきだしの記憶がとつぜん三次元になって、
はじめてこの記憶が二次元になっていたと気づく。

「かいじゅう屋」の丸パンは今朝あたためて食べた。
知人には丸パンと、木の実のパンをあげた。
丸パンさいこーだ、と知人は言った。
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by mayukoism | 2009-12-11 01:31 | 生活