乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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居候になりたい

将来なにになりたいの、と聞かれて、いそうろう、と答えたことがある。

空想のなかでわたしは男で、日本家屋の2階に間借りする。
階下から、ねえ、2階のおじさんはいつもひまそうだけどなにしてるひとなの?という子どもの声がする。
ときおり、間借りのお礼に扉のたてつけを直したり、棚を作ってやったりする。

未来になんのたしかなこともないから、居候は2階から夕焼けを見る。

手あかでいっぱいの自分の部屋より、他人の家のほうが落ち着くのはいったいなぜなんだろう。
お父さんのくせ。お母さんの好み。子どもたちの変化。
人と人とがより合ってつみかさねた暮らし。
家族でなくとも、一人暮らしでも、いっこうにかまわない。
一人暮らしの他人の部屋は、そのひと個人の生い立ちがゆっくりじわじわと、沁みこんで見えてくる。
食卓の上の知らないティッシュの銘柄を見て、なるほどなあ、と思ったりする。
根本的には変わらないはずなのに、そこに広がるのはおどろくほど記憶とは別の生活なのだ。
こんなにも別であることが、なんて心地いいんだろう。

自分が居候になりたかったことを、図書館で借りた『随時見学可』(大竹昭子著/みすず書房刊)を
読んでいて思いだす。

大竹昭子の小説は不思議だ。
砂のようにさらさらと乾いているのに、冷たさは感じない。
どこかに向かう一点を書こうとしていない。
出来事と景色が、おなじ重みでさしだされる。
そうか、写真という表現をまるごと言葉にうつしたら、こんな物語になるのかもしれない、と思う。
大竹昭子はぱらぱらめくるより、きちんと読んだほうがおもしろい。

巻頭の『本棚の奥の放浪者』は、旅先の友人の家で暮らす話だ。
部屋には大きな本棚があり、読む本が尽きると語り手は本棚をあさる。
他人の書棚の混沌とした並び。
本を引き出すたびにふくらむほこりと黴の匂い。
そこで見つけたある本にまつわる短い話。
この短編がよかった。

こないだ、ふらふらと早稲田散歩をしていたときに、この「ある本」を見つけて、
高かったので迷い、結局買わずに帰ってきてしまったのだけど、
やっぱり買ってくればよかった、といま思っているところです。
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by mayukoism | 2009-10-16 03:02 | 本のこと