乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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信濃川のある町

ひらけた、と思うと、そこには信濃川がある。
まだよく知らない町だから、たしかな地図は描けない。どこにいるのかもよくわからないまま、
勝手知ったる早足の背中を追ったり、車に乗せられて山を越えたりしている。
それでも、どこまで行っても、その町には信濃川がある。



遅い夏休みをとって、この町に花火を見に来た。
東京では考えられないような大きな花火(四尺玉)が、神社の近くで上がるのだと、
この町で育った人が言う。
神社のまわりでは、若者たちが組ごとの山車を引き、がなるようにお囃子をうたう。
よい匂いの屋台には、すでに長い列ができている。

唐揚げの屋台に並びながら、奥さんにもうすぐ子どもが生まれるという人の話を聞く。
その間にも山車が、参道をやいやいととおりぬける。
あぶないからこっちに来ていたほうがいいとかばわれ、女の子扱いされたことがほんのりうれしく、
奥さんもこういうところに惹かれたのだろうか、などとどうでもいいことを考える。
ビール、チューハイその他を買いこんで敷物を広げると、独特のイントネーションのアナウンスが流れ、
花火がはじまった。

誕生祝い、成人祝い、還暦おめでとう、天国のおじいちゃんみんな元気にやってます、など、
すべての打ち上げにだれかの、なにかの思いが読みあげられていく。
花火は、見た目の大きさはもちろんのこと、地中から体をつきあげてくるような音がすごい。
どん、とくれば、内臓が一瞬、無重力になる。

似たような花火ばかり撮ってしまったような気がしていたが、いま眺めるとどの花火もちがう。
花火の種類は同じでも、撮るタイミングによって、まったく別の形になる。
尺玉、二尺玉、スターマイン何十連発、とおおきな花火があんまりたくさんつづくので、
歓声はそのうち、わけのわからない笑いに変わっていく。
花火があがる空は、平和なのだと思う。



流れる景色に川の気配を感じて顔をあげると、まず深い緑の山々がこんもりと、空をふちどる。
ふもとには色とりどりの屋根が集まり、屋根をかこむように低い木がつらなる。
その木々のまわりに、稲穂が黄色く波うつ田んぼが、直線できれいに区切られてつづいていく。
それらをゆったりとなでるように、信濃川はおおきく蛇行する。
蛇行して、その先はもう見えない。

あれが山本山、
あの光るのが信濃川。

この町で育った人たちの言葉で、パノラマの地理が頭の中に立ちあがっていく。
そうすると、この町を知らなかったときの自分はたちまち消えてなくなる。
いまのところ季節は冬ではなく、パノラマは緑のグラデーションがどこまでも広がるはれやかな景色だ。
もしも次に来ることがあるなら今度はもっと歩きたい、と思いながらバスは信濃川を越え、
みじかい夏休みは、あっという間に終わった。
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by mayukoism | 2009-09-14 03:10 | 見たもの