乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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豆さんの手帖

真夜中の線路際を歩く。
真夜中の線路は、いくつもの導線をりんとしならせて、あかるい闇の中眠っている。
ガード下をくぐりぬけ、池袋駅西口方面へ。

わめぞの豆さんは、触れたらふかふかとやわらかそうな心の持ち主だ。
いつもは大勢の輪の中で言葉をかわす豆さんと、今日はふたりで会う。
軽口をたたくのが下手で、会話で人を楽しませることができないので、
相手がだれであっても、ふたりきりで会うのは少し緊張する。

こじんまりとしたタイ料理屋に入り、豆さんはシンハービール、わたしはアサヒをたのんだ。
豆さんは相手の目を、とても自然に見つめながら話をする。
見つめかえしてもそらしたり、なにかを言い含めたりしないので、ぽつりぽつりと言葉はほどけ、
やがてあかるくはじけていく。

豆さんの茶革の手帖を見せてもらう。リング式の、装飾のない手帖だ。
ここに豆さんは、忘れてはならないさまざまなことを書きつけていく。
「ひき肉っきんぐ」と「新居格」が一冊の手帖のなかに混在し、気になるお店の切り抜きもあれば、
パニック映画の豆さんランキングを見ることもできる。

手帖を持つと、わたしは事務的な予定でさえ過度に言葉を選び、そのうちくたびれて放り出してしまう。
豆さんの手帖はちがう。
豆さんの手帖は、豆さんのために、豆さんにとってちょうどいいスタイルで存在している。
見られることを意識せず、かつ見られることをいとわない言葉の、なんという軽やかさよ。

はじめてこの手帖を見たとき、わたしはこれを心の宝物にしようと本気で思った。

川村カオリ追悼、ということでカラオケに行く。
それにしても今年は、死ななくていい人たちがどんどんいなくなってしまう。
いなくなってしまった人つながり、ということでFishmansを歌う。
豆さんの声はキーの高い、女の子らしい声だ。charaの歌がよく似合う。

ひとしきり歌いおえて別れぎわ、ちゃんと眠らなきゃだめだよーと小さく手をふる豆さんの残像を、
たいせつな便箋をひらくように、なんども思う。

わめぞの集まりにうろうろと参加するようになってから、やるべきことを指示してくれたり、
小さな、でもかかせない負担のかかる仕事を引きうけているのはたいてい豆さんだった。
いったい、あのふかふかとやわらかな心はなにでできているんだろう。
これから、いったいどんな言葉が、豆さんの心の枝にひっかかって、書きつけられていくんだろう。

便箋を封筒にしまって、今日のできことを話しにいくために、真夜中の白いマルイ脇をぬける。
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by mayukoism | 2009-07-29 22:31 | 言葉