乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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世界の果ての洗濯機

海鳴りをきいたことがない。
きいたら、あれが海鳴りだと、わかるのだろうか。
隣室でまわしている洗濯機は、きいたことのない海鳴りのようだ。
こちらも、洗濯機をまわす。

あらゆる家事のなかで洗濯がいちばんにがてだ。

黒いくつした、無印のバスタオル、紺の下着、制服の黄色いブラウス、
抵抗してもむだだ、と言わんばかりにいっしょくたにほうりこむのはきらいでないのだが、
ぴーぴーと鳴いた洗濯機から、こんがらがった布地の群れをひとつひとつはがし、
ぱんぱんとしながらハンガーをとおし、というその過程の多さに、気がおもくなる。
すぐに着られるわけもなく、どこへもたどりつかない、感も少しある。
乾いたとおもったら、なんとまだ、たたんで仕舞う、という作業がその先に待っており、
みちのりは長い。

じつはいまもまだ、干している。

洗濯は4時間ほど前に終わった。
終わってからなぜかかくんと眠ってしまい、はっと目覚めて「すすぎ」だけもういちどした。
それからも2枚干してはふー、とレモンティーを飲み、くつしたをつまんではネットをし、
と逃避しながら干しているうちに、こんな時間になってしまった。

いつか死ぬ、ということを、なぜだかこどものころから毎日わすれられない。

洗濯というプロセスを、ゆっくりいやいやとこなしているとき、いつもつよく死をかんがえる。
人間は洗濯をくりかえし、くりかえしして、くりかえしのうちに死ぬんだなあ、とおもう。
洗濯のさきに食事があり、労働があり、たのしみがあり、かなしみがある。
遅刻を注意されたあのひとも、無理難題をおしつけてきたあのひとも、
はっはと笑って焼酎ソーダ割りをかきまわしていたあのひとも、洗濯からのがれられない。
世界に背を向けて、小さな渦の中にあらわれては消えるこっけいな物語を、
いつかひそかにながめる。

まだ、干し終わらない。

ラジオ深夜便のこの時間の選曲はまったくすばらしく、
ロス・インディオス&シルヴィア『別れても好きな人』→村木賢吉『おやじの海』
→ジューシィ・フルーツ『彼女はゴキゲンななめ』→ばんばひろふみ『SACHIKO』とつづく、
このとりとめのなさこそがもう愛だとおもう。

電話口で、知人が読む菅原克己の初期の詩を聞いた。
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by mayukoism | 2009-07-12 03:37 | 生活