乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

帰京・車内にて

夜の東北道は、くらい。
助手席ごしにまっすぐな道の行く先を見ると、なにかのしるしのように、点在するテールランプが、
同じくらいの速度でうごいていく。

助手席には王子がすわり、となりでは藤井書店のリボーさんがハンドルをにぎり、ふたりとも
音楽にあわせて肩をゆらしている。
王子の白いシャツがほの暗く透けている。
豆さんとしゃべっていたはずなのに、いつのまにか眠ってしまっていた。夢は見なかった。
目が覚めると、那須高原のサービスエリアだった。

入口の「那須高原」のネオンサインがところどころ切れて、象形文字のようになっているのを見て、
笑いながら自動ドアをくぐる。
車の速さに慣れない身体をたしかめるように、食券機に向かう。
よーし、ここはおれがはらうぜ、とリボーさんが素敵なことを言う。
仙台では贅沢品ばかりいただいたので、庶民の味のするものが食べたい。
カレーをごちそうになった。
車帰京組5人でひとつのテーブルをかこみ、おそい夕食をとる。

今回の仙台でわめぞのみんなのことがちょっとわかった気がする、とリボーさんが言い、
リボーさんから見た「わめぞ」の人々について話してくれる。
リボーさんのかぶっているキャップの、そのななめ具合が、つねにあまりに絶妙なので、
あそこには魔法の力がはたらいているのだ、と思う。
天井に固定された大きなテレビは、恋するイルカの歌をうたう「さかなクン」の映像を流している。

車に戻り、席を替える。
豆さんが助手席に、王子がいちばんうしろの一人席になった。
王子がいつも発している、世界に対する熱みたいなものが、背後でひとつ、またひとつ部品を
はずすようにおりたたまれていく、そんな気配がする。眠っているのかもしれない。
豆さんが、リボーさんと話している。
話はとぎれない。どんどんもりあがる。
音楽の話から、映画の話から、野獣の話から、ふたりの話はどこまでも高く親和する。

10月に結婚するお姉さんから、式でラップを披露するようたのまれているのだ、とリボーさんが言い、
豆さんが、聞きたい!と言ったので、わたしも聞きたい聞きたい、と言った。
しばらく練習してないからなー、つまったらごめんなさい、とハンドルからはずした左手で、
リボーさんがプレイヤーを操作する。
音楽が変わった。
きっちり2分半の、ラップがはじまった。

ことばを、はじける星のようだと思った。
リボーさんが左手でリズムをきざむと、暗闇の東北道が、シャッターを切るように、
ぱしゃっ、ぱしゃっ、と明るくひらけていく。
リボーさんのやさしいことばが、キャップのななめの角度で、つぎつぎと空間にかさなっていく。
かさなったことばのすきまから、想像の姉弟の姿を見ている。想像の結婚式の風景を見ている。

ラップというものがなんなのか少しも知らない。
けれど、ことばに感知できるあたたかさというものがあるとしたら、それはリボーさんのラップだと思う。
リボーさんのことばがどれだけやさしいかは、こちらのコメント欄を見ていただければ、すぐにわかる。

豆さんがipodで流してくれたThe Ska Flames『Yo'll Be Mine』も素敵だった。
家族の誕生日にはおくりものをかならず用意する豆さんが、ある年のお母さんの誕生日、
あまりの金欠に悩んだ末、お母さんの好きなラジオ番組に、メッセージメールをだめもとで送った。
それが採用され、読まれたのだけど、リクエストを自分の好きな曲にしてしまい、
パーソナリティに「お母さんはスカが好きなんですねー」と言われて、
あっ、お母さんの好きな曲をリクエストしなきゃいけなかったんだー、という話。
そこで流れたのがこの歌。豆さんが首をやわらかくゆらす。

高速道路をおりるころになって、リボーさんがSUPER BUTTER DOG『サヨナラcolor』を流した。
むかし仲間と、また旅に出ようと言ってこれを流して、でも結婚したり子どもが生まれたりして、
結局あれから行ってないんだよなー、と缶コーヒーを飲んだ。
わめぞいいな、とリボーさんが言った。
またおいでよ、と豆さんが言った。
窓いっぱいにはりついている色とりどりのネオンを見ながら、『サヨナラcolor』を
みんなに聴こえすぎないよう歌った。
日付が変わる。

やがて、車は明治通りに入った。
[PR]
by mayukoism | 2009-06-24 04:00 | 言葉