乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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ホカロンとアラスカ

低い雲の下、学芸大学までムトーさんの絵を見に行く。
テーマはトラベラー。ムトーさんの「アラスカ」まで、小さなホカロンひとつで旅に出る。

グループ展なので、いろいろな人のいろいろな旅があり、旅先がある。
絵画としてのイラストレーションについて考える。
イラストレーション〔illustration〕;広告や書物などに使われる、挿絵や説明図。イラスト。
『新明解国語辞典 第四版』(三省堂)より

だとしたら、ムトーさんの「アラスカ」はイラストレーションをどこか逸脱している。
なぜならムトーさんの「アラスカ」は、絵の力だけでそこに立っている。
ムトーさんは絵を描く人だから、絵の力を借りてアラスカに行こうとした。
はじめにムトーさんの絵を見て、他の人の作品をぐるりと見て、それを繰りかえしながら、
そこにタイトルがなかったらどうだろう、と考えて、「フランス」「イギリス」「スペイン」などなどを
頭の中ではずしながら眺めたりする。
もちろんそこに至るまでにはさまざまな手段とプロセスがあったと思うけれども、ムトーさんは
ムトーさんのアラスカに行くために、言葉の力も出来合いのものとしての他者の力も借りなかった。
ただ、絵の力だけでそこに行こうとした。
そこにはげしさや強さはおどろくほどなくて、ただ深さだけがある。
ムトーさんの「アラスカ」は深い深い場所にぽっ、とある。
遠くから近くから眺めながら、わたしも深いその場所へ行こうとする。
行こうとして眺めるとほんの少し、描き手の思考が見える。
ここは紙の白をそのまま使っているけれど、こちらは白に白をかさねている。
この青い線は灰色の上に描いているけれど、いったいどの時点でここの青があらわれたのか。
この針葉樹とおぼしき記号の周りに最後に少し白を足したのはどうしてなのか。
下書きのように見える鉛筆の線にこめているのは何か。
答えがほしいわけではないのです。それにたぶんきっと答えはない。
ただ眺めて考えているうちに、ムトーさんのアラスカがわたしのアラスカになっている。
ふりはじめた白い雨の中、折り畳み傘をさぐる手のなかに「アラスカ」をひとつ持ち帰る。

帰宅して鍋。
起こされたのはおぼえているけれど、服のまま眠っていた。
明け方に一度覚めて、パジャマに着替えようとふくらんだポケットをまさぐると、ほのかな体温の
ホカロンが出てきた。
今日は、休日出勤。
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by mayukoism | 2009-02-26 03:00 | 見たもの