乃木繭子 本のある風景など。http://twitter.com/komayuko


by mayukoism
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ある日の本をめぐる2、3の出来事

安楽亭でランチ焼肉をじゅうじゅうと焼きながら、まったく本が読めていないと思った。

1月は長かった。やり残して、明日やればいいか、と思った仕事ばかりが地層のように
つみかさなっていった。やっていないことを指折りかぞえるうちに、やりたいことも
できなくなった。息つぎをするように本をひらくと、いつのまにか仕事のことをくよくよと
考えていてページはすすまず、だったらやればいいのにできないのだった。

とにかくゆっくり本が読みたかった。
ノープランの午後はこれから腹ごなしに歩いて、適当な喫茶店でも入って本を読もうと
いうことになった。あっ、と知人が声をあげたので見ると、網のすきまをとおって落ちた
くし形のたまねぎが、油の中で天ぷらになっていた。

徒歩。
まずは「ベローチェ」に入った。
本を読むならオシャレでない喫茶店のほうが集中できていい。貧乏人にやさしい、
わかりやすい価格もよい。
隣の席の、老夫婦とおぼしきふたりが出口のほうをぼんやりと見つめていて、
誰かが帰るたび夫人のほうが、あらあ、どうも、と立ち上がる。

もうそろそろかしら。
なにが。
もうそろそろ「てぬぐい」出しておいたほうがいいかしら。
そうだな。

そんな会話をかわして、やや離れた隅にある大きなトランクを、時折ごそごそと
やっている。いったいなんの集まりなんだ。いつのまにかいなくなっていた。 
読了。
『幻影の書』(新潮社/ポール・オースター著)
あまりに期待がふくらみすぎて、読めていなかった一冊。

物語の大きなうねりに愕然とする。愕然、としかいいようのない展開に深く息を吐く。
ちらりと読んだ『本の雑誌2月号』で、円城塔がこの本についてはほめていたけれど、
ポール・オースターの物語にはやや飽きていたようだ。
荒川洋治もポール・オースターは二流とどこかで書いていたし、人それぞれだと思う。
個人的にはオースターの生み出す偶然の連鎖に、「物語でしかできないこと」の力を
ありありと感じる。だいたいが信じやすいのだ。

河岸をかえ、「カフェ・ド・クリエ」に入る。ここでも1冊を読了。
『元職員』(講談社/吉田修一著)
図書館本。吉田修一はつくづく不思議な作家だ。この人はもうだめかもしれない、と
思わせたころに『悪人』のような長編を書いてへえっと言わせ、気がつくとまたずるずる
余力の作品を発表する。うまくまとまっていると思うけれど、物語のおもしろみは
ぜんぜん感じられなかった。吉田修一なら『最後の息子』がいっとういい。
収録されている作品はどれもいい。もうこれだけでもいいのかもしれない。

そしてこの本を読みはじめる。
『芥川賞を取らなかった名作たち』(朝日新書/佐伯一麦著)
読んでいない作品が多く登場し、読書量の少なさを痛感する。選考や、作家の周辺に
触れているのもただおもしろく、メモをとりながら読みすすむうち、「カフェ・ド・クリエ」の
閉店時間を知らされたので、引っ越してからもう何度か連れていってもらったラーメン屋に
行くことにした。ざっくりキャベツがたっぷり入った醤油ラーメンが本当においしいのだ。

そこである出来事が起こった。
ラーメン屋でも本を読んでいたので、カウンターの斜向いに座った謎のインテリおじさんに、
ふたりでいるんだから話しゃいいのに、と笑われて、ふたりとも本屋なんですよ、などと
言いつつ、おじさんのハワイでの武勇伝と本に未来はない、という話を聞き、
こりゃもう本は読めないな、と足元の棚にひょいと新書を置いて、あろうことかそのまま
忘れてきてしまったのだった。思い出したのはその日の深夜、お風呂の中でだった。

翌日ふたたびお店に行って、その場にいたお客さんにもご協力いただき、
お、これじゃないの!と『アサヒ芸能』を指さされたりしながら探したけれど、
新書は見つからなかった。ま、読みたい人がいたんだからいいや、と昨日買いなおしたのだが、
先ほど知人から電話があり、さっきムトーさんからメールがきたんだけどね、と言う。
なに?なんだって?

あのラーメン屋からおもしろそーな新書拾ってきたんだけどこれTくん(知人)のー?って。
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by mayukoism | 2009-02-02 03:25 | 本のこと